分光

クラスターの特異な性質は、その幾何構造や電子構造に関係しています。現在、我々は、金属酸化物クラスターの電子構造の解明を通して、その機能性を明らかにすることを目標 としています。そのために、以下のようなアプローチを取っています。

(i) 真空中に孤立したクラスターは、周囲の影響を取り除いた、理想的な系と見なすことができます。さらに、クラスターをイオン化することで、質量分析法を併用して、サイズ の揃ったクラスターを用意することが可能になります。このようにして、原子数や組成比が一意に決定されたクラスターを測定対象とすることができます。

(ii) クラスターの電子状態を明らかにする手法として、我々は広義の「光」を用いています。「光」(=電磁波)は、そのエネルギーを正確に規定することができるのに加え、 スピン1の角運動量を持つため、光吸収の前後での電子状態の変化分を明確にすることが可能です。

このように、真空中に孤立した金属酸化物クラスターイオンについて、その電子構造を明らかにするために、 (1) X線、ならびに(2) レーザーを用いた分光装置の開発を行なっています。

(1)X線吸収

クラスターの電子状態を調べるためにX線吸収分光測定を行っています。X線吸収(内殻励起)は各元素毎に固有の波長で起こることが知られており、クラスター中の狙った元素を選択的に励起することが可能で、その励起原子近傍の局所的な情報を得ることができます。
例えば吸収端近傍(XANES)のピークシフトからは、選択した元素の荷電状態(=価数)を知ることができます。金属酸化物においては、その機能が金属原子の価数と密接に関わっていると考えられています。こうした金属酸化物クラスターにおいて金属原子の価数を測定することにより、金属原子の価数変化に伴ってその近傍で発現する機能の理解を目指しています。
具体的には、
  酸化セリウムクラスター
  酸化バリウムクラスター
  酸化マンガンクラスター
を対象としています。
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図1 開発したX線吸収分光測定装置

(2)レーザー分光

一般的に、物質の機能性に直接関与するのは、原子の最外殻を占める価電子です。その電子状態を明らかにするためには、可視・紫外領域のレーザー光を用いることが最適です。
例えば、負イオン光電子分光法によって、クラスター中の価電子のエネルギー準位や幅についての情報を得ることができます。これらの情報から、注目している価電子がどのような状態にあるのかを明らかにすることが可能です。例えば、あるサイズや組成比のクラスターでは価電子は化学結合に大きく寄与しているのに対し、別のクラスターでは価電子は化学結合にあまり寄与していない、といった比較から、電子構造と機能性との関係を明らかにすることを目指しています。
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図2 実験装置の概略図