液体

液体分子線

タンパク質や糖等の生体分子の構造形成や反応は、分子内および分子間の複数の相互作用が協同的に働くことで成り立っています。なかでも水分子は単なる溶媒ではなく、水素結合や疎水性水和を通して生体分子とクラスターを形成し生体分子の機能を左右する重要な因子です。この溶液内のクラスターの個々の物性や反応を調べれば、相互作用についてより深い理解が得られると考えています。
溶液中の水和や会合形成などの弱い分子間相互作用の観測手段として、気相分析は有効な手段です。気相検出では、微量の試料溶液で短時間での分析が可能になるだけでなく、単離したクラスターを質量(水和数、会合数)および電荷で選別し、クラスターの組成や性質を調べることができます。

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図1 気相単離により、クラスターをサイズ選別して分析する。

我々は、水溶液中の分子や分子会合体を気相中に単離し、観測する手法を開発しています。試料溶液を液体流(液体分子線)として真空容器に導入しここにナノ秒パルス赤外レーザーを照射すると、液体表面のレーザー蒸発により溶液内の分子やイオンが気相に放出されます。放出されたイオンを飛行時間型質量分析計に誘導し、質量スペクトルを測定します。
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図2 液体分子線の拡大写真(左)および実験装置図(右)。試料溶液は真空容器内に掃引したのずる先端の直径20μmの微小孔から流出する。

これまでに、この手法によりアミノ酸やタンパク質等の気相単離を報告してきました。観測した正、負イオンの質量スペクトルから、単離されたイオン種が水溶液内の電荷状態を反映していることが分かりました。さらに、特定の波数(3600-3700 cm-1)の赤外レーザー光を用いると、溶媒である水分子間のプロトン移動反応が誘起され、H3O+とOH-が生成することが分かりました。この反応により、中性溶液からもH3O+またはOH-付加体として溶質分子を取り出すことが出来ます。
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図3 赤外レーザー照射によるイオン生成機構の概念図。