微粒子クラスター

リゾチーム結晶中への微粒子の集積化

タンパク質の結晶は無機や有機化合物の結晶とは異なり、その体積の50 %以上が水で占められており、さらにタンパク質の構造を保持するために必要な水分子も多数存在する。我々はこの水で占められている空間に金属微粒子を占有させ、金属微粒子を3次元に集積化する方法を開発している。
具体的な方法を述べる。まず、金微粒子を還元法にて合成し、さらにリゾチームの結晶中に金微粒子を集積化させる。次に金微粒子のリゾチーム結晶への集積化のメカニズムについての知見を得るため、取り込み率のpHやNaCl濃度依存性を測定した。そのためにまず、様々なpHやNaCl濃度のもとでのリゾチームの溶解度を測定した。まず、結晶化母液を60日間保温し結晶を成長させた後、結晶外液の紫外可視吸収スペクトルを測定することによりリゾチームの溶解度を算出した。次に様々なpHやNaCl濃度のもと、s をリゾチームの溶解度、c を結晶母液中のリゾチームの濃度とするとln(c/s) = 2.0となるように結晶母液中のリゾチームの濃度を設定した。これは、溶液中のリゾチーム分子と結晶中のリゾチーム分子の間の化学ポテンシャルが、どの結晶化条件でも一定になるようにするためである。リゾチーム結晶中に金微粒子を集積化するために、この結晶液を60日保温した。その後、結晶液から結晶母液を採取し、結晶を洗浄した後、結晶を溶解させ、この溶液中に含まれるリゾチームの濃度(CLysc)と金微粒子の濃度(CGNc)を紫外可視吸収スペクトルから測定した。さらに、採取した結晶母液中のリゾチームの濃度(CLysl)と金微粒子の濃度(CGNl)を測定し、次式により
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金微粒子のリゾチーム結晶への取り込み率Keffを算出した。
次に、鉄、コバルト、ニッケル微粒子を水溶液中のレーザーアブレーションの方法によって水溶液中に分散した微粒子を調整した。これを用いて、リゾチーム質結晶中に鉄、コバルト、ニッケル微粒子を3次元に集積化した。さらに磁場によるリゾチーム結晶の挙動を観察した。
取り込み率のpHやNaCl濃度依存性の測定結果を図1に示す。いずれの条件でも取り込み率は1より大きい。これは、金微粒子がリゾチーム分子よりもリゾチーム結晶中に取り込まれやすいことを示す。またNaCl濃度が下がるとpH4でもpH8でもともに取り込み率が上昇することがわかった。また、NaCl濃度が5%と6%のときは、pH4の方が取り込み率は高いが、NaCl濃度が4%の時はpH8の方が高く逆転がおこっている。これらの結果と合わせて、金微粒子の取り込みのメカニズムを明らかにするために、さらに金微粒子のゼータポテンシャルのpH依存性を光散乱法により測定した。この結果を図2に示す。pHが7以上では、ゼータポテンシャルは-12mVとほぼ一定であるが、pH6以下では上昇している。これは、H+イオンが金微粒子表面に吸着するためと考えられる。これらの結果を総合すると、次のような取り込みメカニズムが明らかになった。まず、NaCl濃度が5%と6%のときは、pH8の方が金微粒子表面のゼータポテンシャルが負に大きいため、NaClの静電的遮蔽効果が大きくなる。そのためpH8の方が、金微粒子と正に帯電するリゾチーム結晶表面との静電的相互作用が小さくなり、取り込み率が低下する。さらに、NaCl濃度が4%の時は、NaClの静電的遮蔽効果が小さく、pH8の方が金微粒子のゼータポテンシャルが負に大きくなり、リゾチーム結晶表面との静電的相互作用が大きくなる。その結果 、取り込み率がpH4の時よりも大きくなったと考えられる。
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